2018/11/18

島根県の大森町から松場登美のメッセージ


勘を使う台所
by 松場登美

世間ではオール電化、ICキッチンブームだが私はおくどさんでごはんを炊く。さぞかし不便で大変だろうとよくいわれるが、そう感じたことは一度もない。むしろ炊飯器より早く炊けるし私にとって火を燃やす時間はある種の精神安定剤となる。そして何よりも竈で炊いたごはんはおいしい。炊きたてのおむすびは塩をつけただけでもほっぺたが落ちるほどおいしい。炊飯器でも最近は、高性能のものが開発されておいしくごはんが炊けるらしいが、多くのコマーシャルが「おばあちゃんの竈で炊いたごはんのようにおいしい」と宣伝しているのはおもしろい。炊飯器と竈ではプロセスが全く違うのだ。竈で炊くには炊く前に山にたきつけの枯れた小枝を拾いにゆかなければならない。春は野の花を摘んだり秋は虫の音色に耳を傾けたりといったすてきなおまけがついてくる。

その一つ一つの作業の中で薪割りの力加減や炊く時の水加減、火加減といった勘も使う。勘を使う作業はいつもうまくいくとは限らないが失敗という経験の中で勘は磨かれてゆく。文明の利器に頼りすぎた現代こそ、暮らしを見直してみる必要があるのではないだろうか。文明に麻痺してしまった現代人は五感が退化してしまっているように思う。この田舎に住んでいるとその気になれば細い感覚や微妙な感触といったものを磨くことができる。そうした感覚に根ざした製品や暮らしの在り方を発信することがこの町で仕事する私たちの使命ではないかと考えている。–松場登美


松場登美の会社、群言堂のホームページ https://www.gungendo.co.jp/

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