京町家コテージ Karigane 2号
by下岡広志郎
皆さんこんにちは、京町家コテージkariganeという宿を運営している下岡広志郎です。
私はかつて、妻とともに世界一周の旅をしました。
旅では40を超える国を巡りました。それぞれの国に、それぞれの街並み。そこに暮らす人々と、人々が住む家々。どの街にも、民族性と風土が織りなす合理的な景色がありました。
例えば、モロッコやイランの砂漠の街。2つの街は遠く離れていて、テレビも電話もインターネットもない時代であれば、その住人が互いのことを知る由もない。にも拘わらず、どちらにも共通するムスリムという宗教と砂漠と言う環境が、分厚い日干し煉瓦が建ち並ぶよく似た街並みを作り上げていました。
モロッコ
イラン
同じ文化を共有し、しかも地理的条件が似通っていたとしても、全く違った都市風景となることもあります。例えば、ネパールのカトマンズと日本の京都。どちらも仏教の街で、山に囲まれた盆地。しかし二つの街の風景は、全くと言っていいほど違っています。私の独断と偏見で言えば、カトマンズは胎蔵界曼荼羅を、京都は金剛界曼荼羅を都市計画の基礎としたからなんだと推測します。
全く違う文化であるにも関わらず、地理的条件が似通っているが故に、よく似た風景が作り上げられた例もあります。チリのチロエ島、ノルウェーのロフォーテン諸島、京都の伊根町は、全くといっていいほど歴史的な連続性や共通点がありません。にもかかわらず、漁をするための船を収納するガレージと住居が一体となった木造の建物が海岸に建ち並ぶ、とてもよく似た景色をしていました。
チリ
ノルウェー
語り始めれば止まることがありませんが、文化を比較し共通点や相違点を見出すのは、横断的に世界を旅する醍醐味でした。
帰国後、私たち夫婦は京都にて宿を始めることにしました。
宿を開くにあたって、その建物が町家であることにはこだわりました。スペインの山村にある石造りの家や、先に述べた砂漠の街にある日干し煉瓦の家など、伝統建築には文化と風土を感じる要素が詰まっているからです。自分が旅人だとして、日本を旅して日本を感じたいのであれば、やはり町家だろうと。
町家の改装には、私たち夫婦に友人である大工さんと左官さんを迎え、9か月もの時間がかかりました。ゲストが不便や不快を感じないように、という配慮もしましたが、それ以上に、出来る限り天然素材と伝統工法を使うように心がけました。もちろん、その方がリアリティを感じられるからではありますが、はるか昔より受け継がれてきた日本建築がこれからも伝わって欲しい、という願いもあります。おかげで工期も工費も大幅に嵩増しになってしまいましたが。
荒土壁
改装する中で、最も大変だったのはお風呂です。旅(journey)は、休暇(vacation)だとしても、観光(sightseeing)するので、疲れます。疲れを肉体的にも精神的にもより効率的に癒すことが、旅をより充実したものにする。しかも、日本人ほどお風呂を愛する民族は世界に稀なわけです。宿屋を営む日本人として、お風呂は手を抜けませんでした。
お風呂改装
お風呂
壁の腰から上は桧。お湯を張ると桧の香りが立ち込めます。腰から下と浴槽は多治見のモザイクタイルです。なるべく角が無いようにデザインしているので、触り心地や視覚的にも柔らかく感じられます。また、一度温まったタイルは冷めにくく、体を芯から優しく温めてくれます。そして何より、銭湯の壁画をオマージュした、京都の東西南北の景色を表現したモザイク画がご好評です。壁に描かれた京都の古刹名勝を愛でつつ、あ、今日はあそこに行ったな。明日はあそこに行こうかな。次の旅ではあそこに行こう。なんて思いを巡らせるのも一興と思います。
また、私たちの宿、『京町家コテージkarigane』は茶の湯と縁の深い大徳寺の門前町にあります。もともと茶道教室として使われていた町家なので、細部のデザインもユニークで、見どころがたくさんあります。
伝統的な町家を宿にするという事は、もしかすると、鉄骨や鉄筋コンクリートでできた近代建築のホテルのような快適性を、多少は犠牲にしているかも知れません。しかしそこには、言葉では語りつくせないほどの個性と合理性、歴史が詰まっています。
職人の繊細な技術、天然素材の色や香りに、感性が刺激され、言葉を超えた理解を得られる、より充実した旅ができるはずです。皆さまも、旅する時はぜひ伝統建築へ。
夫婦で1年5か月の世界旅行。帰国後、大徳寺より徒歩一分、元茶道教室の町家を大工や左官職人である友人たちと共に9か月をかけて修復し、一棟貸しの宿「京町家コテージkarigane」を開業。お客様の目の前で、盆点前にてお抹茶を点ててのお迎えが、国内外からのお客さまより好評を得ている。https://rokushou.net/karigane/
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