書家 元狂言師 柳本勝海(ヤナギモトカツミ)
狂言の初舞台を踏んで、かれこれ30年になります。よくも続けて来れたものだと思い、これからも続いてゆくようだと考えると、不思議な縁だと気付きます。
狂言を初めて見たのは、中学校主催の鑑賞会でした。何の期待もなしに参加しましたが、その面白さは格別で、今でもその時見た「萩大名」を思い出すことができます。650年の歴史を持つ狂言は古くてわかりにくいものでは決してなく、中学生の私を魅了する力があったわけです。狂言には普遍性が備わっていることがわかります。
高校生の時、大学生が狂言を習うというテレビ番組を見ました。それで初めて、素人が狂言を見るだけでなく、演じて楽しむこともできることを知り、大学に入ってから、趣味で狂言を習い始めました。習うほどにその面白さにとりつかれてゆきました。
狂言はとても工夫された「型」によって、構成されています。その型さえなぞってゆけば、ある程度見られる演技になるようにできています。舞台の上では、迷うことなく、安心して別人に変身できるのです。その快感は癖になります。
今でも狂言を飽きもせず、続けていられるのは、癖になったからだけではありません。狂言に惚れてしまったからです。狂言の表現するところは、「笑い」だけではなく、人間を絶対肯定したいという思いから来る「救い」のように感じるのです。
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